【Introduction of Iwakura 142】
□分類:石神(広義のイワクラ)
□信仰状況:民間に祭祀されている
□岩石の形状:石単体(2個)
□備考: 1768年以降の信仰
□住所:沖縄県沖縄市泡瀬
□緯度経度:26°19'14.91"N 127°49'59.17"E
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沖縄市泡瀬にビジュルと呼ばれる岩石が祀られています。子宝・安産祈願の石として広く知られていて、その御利益を求めて全国から参拝者が訪れるようです。
昔、この泡瀬の地は海に突き出た小島でしたが、1768年に、この地に入植した樊氏高江洲(はんしたかえす)義正は、干潟を開墾しました。ある日、漁に出た義正は海面に浮かぶ霊石を見つけて持ち帰り、ビジュル神として、石祠を建てて安置したのが始まりと伝えられています。
1938年に社殿と二基の鳥居等が建立され、1983年に区画整理事業によって、社殿と二基の鳥居が嵩上げされています。境内には、メーヌウタキ前之御獄、ウブガー井戸、火之神、ミーガー新井泉、アガリヌウタキ東之御獄、カーヌモー共同井戸などがあり、旧暦9月9日のお祭りでは村人たちが巡礼するようです。この泡瀬のビジュルは、「ビジュルヒチ」と呼ばれる男性司祭者によって祭祀されており、義正氏の末裔がその役を担っています。
ビジュルとは、海に浮かんでいた石、物を言う石、土中からとび上がった石など、伝承を持つ石を信仰の対象にしたもので、沖縄諸島と八重山諸島に分布し、100箇所近くあると云われています。岩石そのものに対して、子宝・安産祈願、無病息災、航海安全などを祈願するもので、石神信仰に分類できます。特に泡瀬のビジュルは、男根を思わせるような2個の石なので、子宝・安産にご利益があると考えられたのでしょう。
このビジュルを賓頭盧(びんずる、ピンドーラ・バーラドヴァージャ)の事であると主張している方もいます。賓頭盧は、十六羅漢の一人で、賓頭盧の像を撫でると病気が治癒するという風習があり、東大寺や善光寺の像が有名です。賓頭盧像は信仰上の偶像ですので、仏像を形成している材料には拘りがなく、木でも石も銅でもかまいません。信仰対象は仏の姿です。一方、石神は、その岩石を神とするもので、岩石自体を崇拝しますので、その信仰は全く異なるものです。おそらく、たまたま音が似ていたために、仏教が沖縄の風習を取り込むために広めた説だと思います。
折口信夫は、『琉球の宗教(1923)』において、「大体に於て、石を以て神々の象徴と見る風があつて、道の島では、霊石に、いびがなし〔神様〕といふ風な敬称を与へてゐる処もある。又一般に、霊石をびじゅるといふのも「いび」を語根にしてゐるので、琉球神道では、石に神性を感じる事が深く、生き物の石に化した神体が、沢山ある。井(カア)の神として、井の上に祀られてゐるものは、常に変つた形の鐘乳石である。此をもびじゅると言うてゐる。ある人の説に、びじゅるは海神だとあるが、疑はしい。」と述べています。折口信夫は、「ビジュル」は「イビ」を語源としていると考えたようです。
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